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なぜ現代に「はり灸」なのか?
ようこそ、本町北はり灸院のホームページへ。
このホームページは、当院で行っている「積聚治療(しゃくじゅちりょう)」の考え方を通して、我が国で古くから国民の健康を守り続けてきた東洋医学の一翼である鍼灸(はり・きゅう)の役立ちを広く知っていただくことを目的にしています。
鍼灸治療は、「鍼を刺す・灸(もぐさ)を燃やす」というビジュアル的な奇抜さや派手さばかりがTVなどのマスメディアで強調されがちですが、その本質は過去に我が国に於いて医術の本道であった「漢方」と同じ物です。
明治28年に、政府が西洋医のみを医師と定めるまで、我が国では東洋の気候・風土に根ざした漢方医学が主流でしたが、この漢方医学とは気の概念(東洋思想)に基づいた診断を行い、漢方薬を飲ませる体内からの治療(内治)と、鍼灸を施す体外からの治療(外治)によって病にアプローチする医学でした。
最近では、NHKドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』の中で、主人公のチャングムが医女として食事(食養生)と湯液(漢方薬)と鍼灸で治療をしているシーンをご覧になられた方も少なくないと思いますが、そのチャングムの行っていた医療を思い出して頂けると、イメージしやすいのではないかと思います。
ですが、ドラマ終盤でチャングムも苦しんでいましたが、漢方医学は外科的な処置が未だ未発達でした。体表のできものを切り取ったり、膿を排出したりと言った程度の外科的処置はあったものの、損傷の無い体表部を意図的に切り開いて、臓器や関節などの体内に外科的な処置を行う事は当時では考えられませんでした。
また、当時は未だ細菌やウイルスなどが発見されていませんでしたから、公衆衛生についての研究が進んでおらず、コレラなどの伝染病を食い止める有効な手段を持ちませんでした。
その結果、もともと西洋に多かった伝染病(感染症)の治療から生まれた公衆衛生学や、度重なる戦争の影響で必要に迫られて発達した高度な外科手術の技術が西洋医学からもたらされると、文明開化・富国強兵に燃える当時の我が国では漢方医学(東洋医学)は古き悪しき物とされ、西洋医学こそが新時代の医学であるとして国の医学の根幹となりました。
それから約100年。文化的な欧米化に伴なう「病の欧米化」も追い風となって、すっかり我が国における医学とは西洋医学を指す言葉になりました。
ですが、なぜか近年になって過去に捨て去った筈の漢方医学(漢方薬・鍼灸)が見直され始めています。
その理由は至って単純で、欧米で発達した現代西洋医学も未だに発展途上であり、全ての病を治療するにはまだまだ力不足だったからです。
現代西洋医学は、現代科学を基礎にして発展していますが、その現代科学が現状で世界のあらゆる事象の理を解明し切れていません。いわば、未だに未完成の科学と言えます。
我々の身体、いわゆる「人体」も、現代科学によってあらゆる方面から研究が行われていますが、未だにブラックボックスを多数抱えている「よく解らないもの」の代表選手の1つです(「宇宙」やら「時間」やら色々とよく解っていないものがありますが、人体も同じくらいよく解らないものの一つといえますよね)。
それでも、漢方医学が作られた当時と比べると、目で見て観察できる範囲の事は、随分解ってきていますので、感染症で命を落とすことも少なくなりましたし、事故などで人体が構造的に破壊されても修復して延命を行う事も出来るようになってきました。
さらには、細胞内にまで研究が進み、薬物を用いて代謝や生理機能にまで影響を及ぼすことも出来るようになってきました。そしてさらに研究が進み、現在は遺伝子の研究も盛んになり、再生医療やテーラーメイド医療などの新しい医療の研究も進んでいます。
科学の発展と共に、医療も発展してゆくでしょうから、早晩SF映画の世界でしか見たことがないような夢の様な医療が行われる日も来るのでしょうが、現在は未だに原因がよく解らない病気も数多くあり、原因が分からないからこそ治療法もよく解らないという病気が多数存在するのが現実です。
つまり、現代西洋医学の完成は、残念ながら現代科学の完成を見るまでは訪れないということです。それまでは当然治しようのない病気が存在し続けることになります。
これに対して東洋医学は、現代科学が生まれる以前の古代中国の科学であった気の概念で自然界全体(人体も含む)を認識して、病の診断・治療を行うことから、現代西洋医学とは全く異なったアプローチを行う事が可能になります。
端的な例として、東洋医学では重要視される「冷え」や「於血」等の体質的な病気が、現代西洋医学の視点では病気とさえ認識されていない現実があります。
近年ようやく「体温が低いことは良く成さそうだ」とか「ドロドロ血はよくないようだ」と言われ始めていますが、高血圧や高脂血症などのように病名が付くような病気としては未だ認識されていません。
「漢方薬で改善した」「鍼灸で良くなった」という病気の中には、このように現代西洋医学が忘れている(知ることができない・考えることができない)原因が関係している物も少なくないのではないでしょうか。
このように、過去に古くさい物として捨て去られてしまった東洋医学(漢方医学)の中には、特に東洋人に多く発生する病を効率的に治す手法が眠っている可能性があり、それは古くさくて間違っているものではなく、単に研究が遅れているだけのものだったのではないでしょうか。
つまり、我々は過去に大切な財産を置き忘れてきてしまっているのです。
今後、気の科学的な解明が進めば、過去に置き去りにされてきた東洋医学も現代の医療の内部に効率的に取り込まれてくるのではないかと思います。
ですが、残念ながら現代では、人類はまだ「気の概念」を現代科学的に理解できていませんので、気の概念で作られた東洋医学を現代科学を応用して行う事ができません。
物質的な道具としては漢方薬や鍼・灸も研究されて現代西洋医学に応用もされていますが、残念ながら現在の西洋医学の中で発揮されている漢方薬や鍼灸の力は、その本質のほんの上澄み程度でしか無いように思います。
そんな科学レベルの現在では、無理に現代科学的にこじつけて東洋医学を行うよりも、まず「気の概念」を学び、現代科学ではなく気の概念に則って東洋医学を実践する方が、よりダイナミックにその恩恵と成果を得られる事が往々にしてあります。
その為、現在の鍼灸治療は、西洋医学的な考え方に根ざした鍼灸と、東洋医学的な気の概念で行う鍼灸とが混在した状態にあります。
西洋医学的な鍼灸は、主に整形外科、ペインクリニックなどの補完的役割として、痛みの治療に応用されます。具体的には腰痛や膝の痛み、神経痛などに対して痛みの出ている部分に行う鍼灸治療です。薬物を用いない鎮痛治療として非常に優れた効果を発揮します。
誰が行っても同様の効果が得られるように研究が進んでいる分野でもあり、効果にばらつきはある物の比較的高い再現性が期待できるので、普及しやすい治療法です。
東洋医学的な鍼灸は、気の概念に則り、一人一人の患者さんの身体の状態(気の状態)を確認して全身的な調整を行うことから、自律神経症状や心身症などに対しても効果を発揮します。
応用範囲が広くダイナミックな効果が期待できる反面、同じ治療法でも、施術者個人の力量によって効果がマチマチになる傾向があり、再現性が低いため普及が難しい治療法です。
このような背景から、例えば湿布などで痛みをやり過ごしている方などには、西洋医学的な鎮痛効果のある鍼灸治療でも充分な恩恵がありますし、複数の症状が複雑に絡み合ってなかなか健康に慣れないようなタイプの方は、病院で経過観察を受けながら東洋医学的な鍼治療で西洋医学とは全く違うアプローチから気の治療を受けてみると突破口が開けることもあります。
現在の社会的な状況の中で、賢く東洋医学を利用しようとすれば、西洋医学による管理・治療を受けることで現在の病状を把握しながら、自律神経の調整作用、循環不全の解消などを一つの目標に気の概念に則った鍼灸治療を併用してみるというのが比較的な安全で成果を得やすい方法ではないかと思います。
過去、まだまだ科学技術が進んでいなかった時代では出来なかったような診断や治療が現代では出来るようになっています。ですが、それで東洋医学が不要になった訳ではありません。
選択肢の幅が広がり、より有効な医療を選択できる良い時代になってきてはいますが、現代西洋医学と東洋医学が同一の科学的常識の上で研究が出来ない影響で、医療の最前線でもそれらをスムーズに取捨選択出来ないのが現在の医療の姿ではないかと思います。
病院では各科の専門のお医者さんが、最先端の研究成果を少しでも有効に患者さんに提供しようと努力されています。ですが、これだけ医学が細分化されてくると、あらゆる医学に精通したパーフェクトドクターは普通の人間ではとてもなれません。
現代の医学は、各々の専門分野を極めたスペシャリストがチームを組んで行う体制が主流です。残念ながら、未だ鍼灸師はその医療チームのスクラムの中には入れてもらえない事が多いのですが、それでも連綿と受け継がれてきた伝統的な東洋医学である鍼灸のスペシャリストとしての大きな役割をもっていると思います。
このような現状から、なかなか病院の診察中に鍼灸を薦められる機会は少ないと思いますが、皆さんの判断で病院での検査・投薬にサプリメントやトレーニングを追加するように、鍼灸治療も現代医学とは少し違ったアプローチでケアを行う方法として積極的にご利用頂ければと思います。