積聚治療で冷えを取る 鍼灸(はりきゅう)専門治療院 本町北はり灸院(鍼灸院(針灸院):富山県富山市呉羽町住吉744)

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積聚治療と局所の鍼灸治療の比較

 ここでは、積聚治療と局所の痛みに対する鍼灸治療を腰痛の治療を例にとって比較してみます。

 なお、早とちりして頂きたくないのですが、どちらが優れているかを比較検証する訳ではありません。このコンテンツは、治療の内容や手順などを比較したものです。

腰痛の例

 当院では、原則的に局所治療は行っていませんので、局所治療の例には『診察法と治療法 1総論・腰痛』(著・出端昭男)の中で出てくる腰痛の症例を取り上げます。

 積聚治療の内容については、この症例の場合行うであろうと予測される治療手順を示します。

※注意:図の頸椎は5つしか書かれていませんが、これは環椎と軸椎を省き第3頸椎から記入してあるからです。

腰痛の例

腰痛の例

腰痛の例

 51歳女性 主婦
 20年くらい前にギックリ腰をやり、その後3年に1度くらい腰痛を起こすようになった。
 今回は2週間前に腰痛体操をやっていて急に右の腰が痛くなった。
 現在、靴下の脱ぎ着にも痛みを感じる。

局所治療の場合

 腰に出ている痛みを取るという事を目標に、痛みの出ている付近に直接治療を行い、痛みを出している周辺組織を刺激し回復をうながします。

 ツボや経絡というよりも、筋肉や神経を意識して治療する事になるので、治療と結果の因果関係がつかみやすく、短時間である程度確実な結果(痛みの軽減)が得られる為、健康保険での鍼灸治療の際に用いられることが多い治療法です。

 下はその一例になります。

局所治療の例

局所治療の例

 図の黒点の部位にステンレス鍼の寸6−4番(5cm−0.22mm)を2cm〜3.5cm入れ、10分間置鍼(刺したまま置いておく)。
 鍼を抜いた後に、鍼をした場所(図では赤点)に糸状の灸を3壮づつすえる。

 15日間に上記の治療を7回行ったところ、症状が改善した(腰の痛みがとれた)。

 なお、膝の裏・アキレス腱の外側の鍼は、『診察法と治療法 1総論・腰痛』の症例には含まれませんが、局所治療を行う場合に、追加される事がある場所ですので、こう言うところにも局所治療では鍼をすることがあるということの参考として入れました。

 この例では鍼を刺したまま置いておく置鍼の手法を使っていますが、他に多い治療法として鍼に電極を取り付け、電気を流すパルス治療もよく行われます。パルス治療の時間は10分〜20分です。

 治療時間は、概ね30分〜45分(その内置鍼・パルスなどが10分〜20分)です。

積聚治療の場合(当院では)

 積聚治療は痛みの原因を冷えととらえて治療を行いますので、腰だけ・肩だけの症状の治療でも全身的な冷えを取るための治療を行います。その為、腰痛の治療であっても、まずは腹部の積聚の確認から行い、背中全体・手足も使って治療することになります。

 また、積聚治療は一本の鍼が身体に与えた影響をその都度確認して治療を進めますので、局所治療の様に鍼を刺したまま置いておくことはほとんどありません。

 下は上の症例を治療したと仮定して予測した大まかな治療手順です。

仰向けの治療1

仰向けの治療・1

仰向けの治療・1

 まず、仰向けに寝ていただいて、お腹全体に接触鍼(後述)を行います。

 その後、両手の手首の脈で脈診を行い、脈の調整のために、左手首中央のツボ(上図の黒点)の所に銀鍼寸3−3番(4cm−0.20mm)をあてて、ツボを鍼の弾力で圧迫します。しばらく圧迫した後に手の筋肉や脈に鍼の反応が出れば鍼を離します(以後、全身に行う鍼の操作はこれに準じます)。

 接触鍼をした腹部を触り、腹診を行ってお腹に現れる冷えの状態を確認して治療パターンを決定します。

接触鍼の鍼の操作

接触鍼の鍼の動き

接触鍼の鍼の動き

 上図は腹部に行う接触鍼の鍼の動きと鍼を行う一連の動作の図解です。

 接触鍼はその名の通り、鍼を皮膚に触れさせる鍼の操作で、刺すというよりも、皮膚を押すような操作をします。

 身体の浅い部分の異常を取り除く効果があるので、治療の最初の段階で行い、その後行う鍼や灸に身体を反応しやすくし、またお腹や脈などに出てくる異常点を浮かび上がらせる狙いがあります。

 接触鍼は、上図のように、定まったツボ(点)に鍼を行うのではなく、対象になるエリアに対して“面”の刺激を与える治療です。これは背中や肩などで行う場合も同様の方法になります。

うつ伏せの治療

うつ伏せの治療

うつ伏せの治療

うつ伏せの治療

 腹部と同様に、まず背中全体に接触鍼を行います。

 次に、腹診で決定した治療パターンに沿って、背中のツボに上図の黒点の番号順に、1カ所ずつ身体の変化を見ながら鍼をして行きます(5番目の膝の裏は必ずするとは限りません。また身体が充分に変化すればそれで治療は完了するので、4カ所全てに鍼をするとも限りません)。

 この時に身体に起こる変化は、腰の筋肉や膝の裏、肩・背中などの筋肉が緩んだり、逆に一時的に緊張したり、汗をかいたり、お腹鳴ったり様々です。もちろん、感じてる痛みが軽くなるという変化もありえます。これらの身体の変化全てを“気が動いた”として冷えの改善に結びついていると解釈します。

 私も恩師の先生や先輩に積聚治療をして頂いていましたが、全身の緊張が薄皮を向くようにはがれて行くようなそんな変化を感じました。

 鍼で充分な変化が得られたら、次に補助として背中に灸を行います。上図では赤点の場所に米粒大の灸を10壮、大きな赤点の場所に塩灸(後述)を行います。

 塩灸は必ず行うものではありません。北陸の患者さんは冬季に雪かきなどで氷点下の雪上に長くいることがある影響なのか猛烈に冷えている人が多かったので、補助的にじっくりと熱を入れる灸法が無いかと考え、思い出したのが塩灸でした。これは首都圏の積聚治療院では行われていないと思います(たぶん首都圏の方には強く中たりすぎるでしょう)。

塩灸

塩灸

 上図は塩灸の模式図です。

 塩灸とは、皮膚ともぐさの間に塩を挟むことで、直接皮膚を焼かずに温める隔物灸の一種です。

 塩は変形しやすい素材ですので、へそに灸をする際に、へその穴に塩を詰めて“へその塩灸”が行われていたそうです。また、変形しやすい特徴により、眼精疲労の際に眼球(まぶた)に、耳鳴りの際には耳の穴に行うこともできます。

へその塩灸

へその塩灸

 なお、へその塩灸は胃腸虚弱などにも効果があります。残暑厳しい折の暑気払いや、季節の変わり目などに風邪予防として行うのも良いのではないかと思います。

 最後に、背中から腰、膝の裏などうつ伏せで確認できる体の状態を触診し、必要がある場合は直接筋肉を狙って深く刺す鍼を行う場合があります。この場合、事前に行っている冷えを取る鍼で身体の緊張が緩んできていますので、よりくっきりと異常点が現れてきますのでピンポイントで治療する際も効果が出しやすい状態になっています。

仰向けの治療・2

仰向けの治療・2

仰向けの治療・2

 うつ伏せで背中の治療が終わりましたら、また仰向けになって頂き、再び腹診をして背中の治療で積聚の状態がどの程度変化したかみます。

 それに従って、残っている積聚の状態から、手足のツボに鍼をします。この手足の鍼も背中と同様に、皮膚に鍼をあてて圧迫しながら身体の変化をうながします。

 上図では、さらに冷えが強いことを想定して恥骨上の赤点の部分に米粒大のお灸を5壮と、へそに塩灸を加えてあります。

 恥骨の上の灸は熱いものですが、腰から下腹部全体に刺激が響いて気持ちいいものです。

 その後、腹診で積聚安定を確認し、ある程度変化が起こりにくくなったところでその回の積聚への治療を終了し、脈の安定を確認して、問題が無ければ座っていただきます。

座った姿勢の治療

座った姿勢の治療

座った姿勢の治療

 座っていただいた姿勢では、まず肩全体に接触鍼を行います。

 その後、肩の緊張箇所を1カ所選び、その反対側(緊張が右にあれば左)に鍼を行います。

 腰痛の治療で肩まで治療するのは不思議に感じられるかも知れませんが、座った姿勢をとって頂くのは、起きあがりの動作をみたり、起きた姿勢で背中全体の筋肉や皮膚の状態をみたり、重力が上から下へかかった状態での肩周辺の緊張を確認したりする意味があります。決して肩こり治療をサービスしている訳ではありません。

 ただ、全ての患者さんに座って頂いて肩の治療を行うわけではありません。患者さんの状態によっては仰向けのままで治療を終了します。

 これは仮想の治療ですので、どれくらいで効いたかについては書きようがありませんが、実際の鍼灸治療例のコンテンツにぎっくり腰の例がありますので、治療期間等についてはそちらを参考にして下さい。

 治療時間は45分〜90分です。上記の例では恐らく60分程度かかると思います。

鍼を刺す深さの比較

 ここで、局所治療と積聚治療で鍼を刺す深さを比較してみたいと思います。

 まず、積聚治療が、皮膚の浅い層への刺激を大事にする事に対して、局所治療では実際に緊張している、または損傷している筋肉へ直接鍼を刺す傾向にあるので、結果的に局所治療の方が全体に深く刺す傾向にあります。

 ただ、積聚治療の場合も、場合によっては3寸(約9cm)の長鍼を根もと近くまで腰やお尻に刺す場合もありますので、積聚治療なら深くは刺さないということはありません。

鍼を刺す深さの比較

鍼を刺す深さの比較

 傾向として、基本的に筋肉を狙う局所治療は平均して2cm程度鍼を入れることが多くなると思います。

 それに対して、積聚治療の場合は、圧迫法で鍼を入れる際に、皮膚を素早く切るということをせず、皮膚が開くのを待つので、皮膚の浅い層にじっくりと刺激を入れる傾向にあり、筋肉を直接狙うことがあまりありません。

 これは、積聚治療的には身体の浅い部分の動きやすい気にアプローチする為と意味づけているのですが、現代医学的に解釈するなら、真皮に存在する受容器(触覚・痛覚・温冷覚など)をじっくり刺激することで、それらの感覚を受け取る脳(主に脳下垂体)を刺激して自律神経を調整していると仮説を立てることができるように思います(積聚治療では表皮すら破らない場合がありますが、その場合も真皮の小さな一点に圧刺激がかかっていますので、それが受容器影響を及ぼしていると考えられます。)。

 なお、局所治療でも筋肉まで刺さず、皮膚の浅い部分に鍼をすることで治療を行っている鍼灸院もあります。

得られる結果

 まず、どちらの治療法をとっても、腰痛そのものは軽くなる、あるいは痛みが取れるという結果が得られると思います(腰痛でお悩みの方は是非一度鍼灸治療を受けてみて下さい)。

 その意味では、痛みを取ることだけが目的の場合、またはお仕事などで定期的に腰痛を起こすので度々治療を受ける必要がある方などは、健康保険で局所治療を受けられるのがコストパフォーマンスも高いと言えると思います(健康保険適応の場合、治療費負担は200円〜500円程度)。

 ただし、これは個人的な感想になりますが、局所治療の場合は、鍼をした部分だけが軽くなり、それ以外の身体の部位は怠かったり重かったりしたままということがあるのに対して、積聚治療を受けた場合は、全身的に均等に緊張が緩み、全身が暖かい印象を受けました。

 では、なぜ局所治療でも痛みが取れるのに、わざわざ手間暇をかけて積聚治療を行うのかというと、それは痛みを起こす根本原因である冷えを解消する為です。

 身体に現れる症状(痛みや不快感)は、全て冷えが高じて現れてくると積聚治療では考えます。その為、単純にみえる腰痛であっても、それが起こる背景にそれ相応の冷えがあると見ますので、この冷えを放置して、表層に現れている腰の痛みだけとっても、それは“根を切らず草を刈るのと同じこと”と考えます。

 また、腰痛の底に隠れてる冷えを放置することで、身体全体の回復力が順調に働かなかったり、場合によっては腰痛よりもより深い症状(しびれや神経痛、場合寄っては各種腫瘍など)に発展する可能性も残りますので、折角時間とお金をかけて治療を受けるならば、腰痛を出した冷えそのものを解消してしまった方が、予防的観点からもより良いと考えます。

 歯医者さんに通う場合もそうですが、通院のために時間を割き、治療費払い、痛みに耐えて治療を受けるという“労力”をかけるのですから、折角ならしっかり治してしまいたいという方が多いと思います。

 鍼灸治療は歯科治療ほど苦痛を伴うわけではありませんが、やはり通院のために時間を割いたり、予約をしたり治療費を払ったりとそれなりに労力をかけて受診することになります。で、あれば痛みに対するだけのアプローチだけでは勿体ないと思うのは私だけでしょうか。

 今出ている痛みを身体からのメッセージと考え、軽い内に冷えを取って異常を修正してしまうことを私はお薦めしたいです。

 ですが、局所治療の鍼灸治療もとても優れた痛みに対する非薬物療法です。腰痛や膝痛などには明らかに痛みを軽減させる効果が世界的にも認められていますので、湿布や痛み止めで膝や腰の痛みを誤魔化している方には、局所治療でも積聚治療でも、その他の鍼灸治療でも、まずは一度鍼灸治療を受けていただきたいと思います。