実際の鍼灸治療例
実際の治療例をいくつかご紹介します。
治療開始から終了までの一連の流れをつかんでいただけると思います。
治療例<一覧>
農作業で無理をしたら首が回らなくなった(60代男性 兼業農家)
眼精疲労と頭から首・肩・背中の痛み(30代男性 派遣社員(深夜勤務))
演奏会目前なのに指が思うように動かない(20代男性 大学生)
水を飲んでも戻してしまい半年で14kg痩せた(20代女性 学生)
治療例
重い物をもったらぎっくり腰になった
30代男性 公務員
相談内容
2〜3日前に重い物をもってぎっくり腰になった。
2週間前から腰が重くなり始め、1週間程前から痛みが強くなったのでお医者さんにかかったところレントゲンでは異常は見つからず、腹筋が弱っていて運動不足だからだろうと言われた。
朝が身体が固まって一番辛い。こわばって伸びない。
肩こりをよく感じる。デスクワークでパソコンを使うため眼精疲労も強い。
治療
腹診をすると、お腹全体が臍を中心にまるで飛び出すように膨らみ、強い冷えを表していました。
ぎっくり腰になったのは重い物をもったのが引き金ですが、根本的な過労からくる強い冷え症状を抱えていることが問題であると考え、腹診に従って基本治療を充分に行い冷えの解消に努めました。
その後、仙骨から腰椎にかけて背骨の中心線に沿って2箇所ほど押した痛みの強い場所を探して多壮灸を行い、さらに腰部の深い筋肉を目標に直接単刺で刺鍼したところ過敏な反応が出たので数本で中止し、腰・頸・腹に棒灸を行い初回は治療終了としました。
2回目以降は、初回時の反応から直接深く刺す単刺を取り止め、お灸も直接灸(透熱灸)から知熱灸へ変更したところ、腰部に行った知熱灸がよく染みたとの事でした。さらに、最後に少しだけ違和感が残っていた患部に接触鍼を施したところ、違和感が感じられなくなったそうです。
11月13日から治療を開始、
11月17日(2回目)−初診日(13日)の翌日は楽だったが、今度は骨盤周辺に痛みが出てきた。
11月25日(3回目)−腰はすっかり落ち着いてきた。こめかみが少し痛い。
眼精疲労などの症状も残っていましたが、強い腰痛が無くなったことから、患者さんの希望もあり3回で治療終了としました。
まとめ
ぎっくり腰は、一見して重い物をもつなどの原因で、腰の筋肉が一時的に傷ついたり腰椎の関節が異常を起こすと考えられがちですが、根本的な原因はもっと深い部分の冷えにあります。
よく「ぎっくり腰はくせになる」と言われますが、これは表面的な痛みが取れたところで治ったと勘違いし、ぎっくり腰を起こした根本的な冷えを放置しているからで、根を残して草を刈っているのと同じ状況にあるからです。
深い部分の冷えが残っている限り、また身体に無理がかかればそれが引き金になってぎっくり腰を起こします。ぎっくり腰はいわば冷えの危険信号ですので、甘く見ずにきちんと芯から治療をしましょう。
なお、腹部がビア樽のように膨らむというのは、一見すると熱の症状なのですが、これは強い冷え(元気の消耗)から腹部に熱が溜まっているような状況で、やはり深い冷えを表します。
一見すると熱の症状なので冷えというと納得できない方もいらっしゃるのですが、熱が暴れる背景は熱を制御する元気が損なわれているという事なのでやはり冷えなのです。
また、この患者さんの場合、身体も大きな男性だったので、初診は少し強めに治療をしてみたのですが刺激に対して敏感で、あまり良い結果になりませんでした。その結果から2回目の治療の際には刺激量を抑えて治療したところ身体が大きく変化してくれました。治療はやりすぎても良くはならないということを端的に表していた症例だと思います。
農作業で無理をしたら首が回らなくなった
60代男性 兼業農家
相談内容
稲刈りに行って軽トラックを田んぼに落としてしまい、1度で済むはずだった荷物の上げ下ろしを2回する事になり随分無理をした。
その翌日、新しい職場に出掛けたときには少し首に筋肉痛を感じる程度だったが、翌々日から徐々に痛みが出始めた。
3日目からは首が痛く寝返りもうてなくなり、その晩は歯医者さんで貰っていた痛み止めを飲んで無理矢理寝た。
痛みで首が回らず眠れないし仕事にも行けない。首が動くようにして欲しい。
治療
首を少しでも動かすと痛みが走る事から、足下を見ることも出来ない状況で来院されたので、通常なら待合室で予診票を書いていただき、充分に問診をしてから治療を始めるところ、すぐに治療ベッドに入ってもらいました。
ベッドに仰向けに寝ていただいて、腹部接触鍼と脈の調整をしながら問診を行い、多少首を動かせる状況になるまで手足のツボを使って脈のレベル(浅い階層)の治療をしました。
全身の緊張が一皮むけて、少し身動きが出来るようになったところで一度座って頂いて、首周辺を触診しながら症状の詳細を確認し、うつ伏せになって頂いてから、基本治療を充分に行いました。
問診と腹診から、過労による一過性の強い上実と判断して、冷えの治療に充分時間を掛けたところ、首を前後させる動きに関しては回復しました。左右はまだ45度程度しか回らない状況でしたが、全身を緊張させていなければ身動きが出来なかった状況は改善し、待合室で予診票の記入もできる程度には回復したところで初回の治療を終了しました。
2回目の治療でも、原則として冷えの治療をしっかりと行うことを重視しました。治療後、以前は首に力が掛からないように身体を緊張させて起きあがっていたのが、首を意識せずにスっと起きあがることができるようになり、床に落とした物も普通に拾えるようになりました。
9月22日から治療を開始、
9月25日(2回目)−初診日(22日)の夜は痛み止めを飲んで寝たが、その後1日経過するごとに回復してきている。
他にも、膝に症状がありましたが、首の痛みが取れて生活に問題ないレベルまで動くようになったので、患者さんの希望から2回で治療終了としました。
まとめ
過労によって起こった強い冷えがハッキリとした形で症状になって現れた例だったと思います。他にもぎっくり腰がこの例と同じ様に、過労からくる強い冷えが原因で起こることがあります。
重い荷物の積み降ろしをして、肩から首の筋肉に負担を掛けたことが引き金ですが、これが比較的体力があった30代の頃であれば充分に疲労に耐えられたでしょうが、60代になり生理的な冷えが強くなっている状況では身体が耐えきれず、強い症状を起こしたように思えます。
初回の治療後、二回目の25日までの間に2日空いていますが、この間は特に治療をしていないのに1日ごとに症状が軽くなっていたそうです。表に出ている症状ではなく、原因である冷えを治療したことで、身体が本来持っている回復力が正常に働いた良い例ではないかと思います。
眼精疲労と頭から首・肩・背中の痛み
30代男性 派遣社員(深夜勤務)
相談内容
首がつまった様に重い。目の奥が重く痛い。頭が重い。背中が痛い。
10年くらい前から頭・首・背中に痛みが出始めた。大阪で平成12年頃まで鍼治療を受けていた。最近腰痛も出る。胸やけ、胃もたれもある。
治療
深夜という、人間の身体が活動するのには適さない時間に立ちっぱなしの仕事をしている為に、仕事で受ける疲労以上に身体が冷えている印象を受けました。
下半身にはあまり症状が出ていないものの、首がつまった印象を受けるのは、熱気が突き上げていることを意味しますし、胃にも症状が出ていることから、裏虚からくる上実ではないかと判断しました。
下半身が冷えて上半身にのぼせ症状が出ることが多いのですが、中には身体の内側(裏)に冷えが強く出て、見掛け上身体が冷えている印象を受けないのに、頭や肩などの上部や皮膚などに痛みやコリ、かゆみや炎症の実症状を起こすことがあります。
この患者さんの例は、深夜にお勤めをすることで、非常に消耗の激しい生活(冷えやすい生活)をされている為に、身体の深いところで冷えが強くなって、それが目や首などに症状として現れてきた物だろうと思います。
治療は基本治療を充分に行いつつ、お灸をすこし多めに行いました。主に、腰・背中などの背骨の上に10壮以上の多壮灸を行い、補助的にお腹と目の周辺を棒灸で温めました。
5月31日から治療を開始、
6月3日(2回目)−胃の調子は大分良い。首・目も2〜3割回復した。
6月10日(3回目)−眼精疲労がある。頭蓋骨と胸椎1番〜3番くらいに重い痛み。4時間しか寝られない。一度起きてしまうとなかなか寝付けない。睡眠不足気味。
6月17日(4回目)−胃は大丈夫。朝も二度寝出来るようになった。眼精疲労は少し残っているが大分良い。
辛くなったら再度予約を入れるということで一旦終了。
まとめ
深夜というのは、気温も低くなりますが、体温も生理的に下がる時間帯です。そういう時間に仕事などで身体を使うと、必要以上の元気を消耗する事になります。
現代は深夜に働くことも珍しい事ではなくなりましたが、照明や空調を使って夜を昼の様にする事にエネルギーを使う上に、身体も必要以上に元気を消耗させられるのですから、夜型の生活と言うのはとてもロスの多い生活です。
仕事などでやむを得ない場合を除いて、出来るだけ日中に活動した方が身体への余計が負担がかからず健康に過ごせます。
なお、お仕事で深夜に働く場合は、通常よりも疲労度が高いことを意識して、勤務シフトも深夜に偏りすぎないように気を付けたり、食生活が乱れないようにするなど、日中に働く以上に、養生に気を配っていないと、身体を壊す確率が高くなります。
左の肩甲骨の内側から背中が痛い
30代女性 プログラマー
相談内容
左の肩甲骨の内側から背中に痛み、左腕に重い痛みとしびれが出る。
18歳くらいから肩こりは感じるようになった、4〜5年前に就職してから痛みが増したように思う。
2〜3日前から強く痛むようになった。
腰痛、生理痛、冷え症、排便時に出血することがある。軽い便秘。
治療
全体にやせ形の体形。足先が冷えて、ふくらはぎに軽いむくみがあり、さらに脈を見ると腎・心包に陰実が現れており、腹部もへそ周辺が軟弱で痛みがあり、下腹部にも痛みがある事から、左肩から腕に掛けての痛みは強い冷え(陰虚)から来る上実症状、冷え症や腰痛・生理痛も冷えが原因と判断しました。
典型的な上実下虚の症状ですが、軽い痔疾の疑いも出ていることから冷えの度合いは年齢の割に深い印象を受けました。
なお、肩から腕にかけての症状は、現代医学的には「頚肩腕症候群」と呼ばれる症状といえます。
まず肩周辺と腰の緊張を確認しながら基本治療をしっかりおこない、補助として腰周辺に少し多めに灸をし、足下と下半身の冷えを取るために、失眠(かかとの真ん中のツボ)にも灸を加えました。その上で、肩・首周辺の緊張している部分を数カ所ステンレス鍼で直接治療しました。
9月12日から治療を開始、
9月14日(2回目)−前回治療の翌日から胸椎2番〜3番の間位に痛みが出てきた。左腕のしびれも残っている。
9月21日(3回目)−左腕のしびれはあまり感じなくなって来た。腰と背中に重い痛みを感じるようになった。4日ほど便秘している。
9月28日(4回目)−左肩のコリ、左腕のしびれは気にならない。前回治療後に排便があった。
10月5日(5回目)−仕事が忙しかった。左肩が痛い、背骨の際が痛む。少し左腕にしびれがある。
10月19日(6回目)−大体体調はよい。仕事がつらくなければ良好。便秘は少し落ち着いた。
概ね肩の症状が落ち着いた事と、仕事での使いすぎへのケアとして自宅近辺での治療を希望されたので、近隣の先生を紹介して治療終了としました。
まとめ
治療後3回目まで、背中や腰に新たに痛みを感じるようになる変化が起きていますが、これは新しく痛みが生まれたのではなく、表に現れていた強い症状がとれ始めたことで、ぼやけて気付かなかった症状を感じるようになったもののように思います。
肩周辺の筋肉が硬くなっているのに、「全く肩こりを感じない」という患者さんがたまにおられますが、そういう患者さんの中には、治療が進むことで肩コリを理解できるようになる方がいます。
この例も、そういう隠れていた症状が順番に顔を出してきた例だろうと思います。
学生時代から肩こりが現れていることや、冷え症・生理痛などもあることから、長年の身体を冷やす生活習慣のツケが強い症状になって現れた症状だったように思います。
まだお若かったので比較的早期に強い症状はとれましたが、生理痛や便秘・排便時の出血などの症状は完全にとれて切れていませんでしたから、生活習慣をあらためなければ、今後冷えが子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科疾患へ発展したり、不妊として現れてくる心配もあるように思います。
できれば、もう少し長期的にケアしたかった例でした。
息子夫婦と奥入瀬を歩きたい
60代女性 主婦
相談内容
一ヶ月ほど前に旅行に行ってから左脚の外側と内くるぶしに痛みが出てきた。また、つま先が上がりにくくて歩けない。
一週間後に息子夫婦と奥入瀬を歩きに行くので、それまでに楽に歩けるように成りたい。
20年前から腰痛を患っている。
治療
旅行まで一週間しか時間がないので、1日置きで治療することにしました。
また、「旅行中に楽に歩きたい」というのが治療をする大きな動機だったので、本来なら冷えの治療を主目的に慎重に治療を開始するところ、刺激量のオーバーを覚悟の上で補助治療として腰部への知熱灸・単刺、失眠の灸、足井穴の温灸を加えました。
5月15日から治療を開始、
5月17日(2回目)−腰は楽になってきたが、歩くと脚に痛みが出る。
5月19日(3回目)−左の外くるぶし、左膝の内側に痛みがある。
5月21日(4回目)−歩くと、左の外くるぶしの少し上に重痛い感じがある。
と旅行の前日まで集中的に治療したことで、長年かかえ続けていた腰痛も随分回復し、脚の痛みや上がりにくさも歩ける程度には回復して、本番の旅行中には足がひっかかる事もなく、長距離の山道をご家族と楽しく歩くことができたそうです。
旅行後は、5月26日から本格的に冷えの解消を目指した治療を、週2回のペースで7月末まで約2ヶ月間続けて頂きました。
7月末の段階で、概ね目立った症状が改善されたので、ご相談の上で一応の治療終了としました。
まとめ
ご旅行までの期間がせめて1ヶ月あれば、無理な治療をする必要もなく、もっと楽な体調でお出かけ頂けたと思います。
鍼灸治療は故障個所の修理を行うというよりも、全体のコンディションを整える治療なので、例えばご旅行など、何かのイベントに向けて体調を回復させたいと思われた場合は、スポーツ選手が試合前にコンディションを整えるようなイメージで、数ヶ月前から取り組み始めると良い結果が得られます。
なお、この患者さんの治療が非常にスムーズに進んだのは、お薦めした生活習慣の改善を積極的に行われた事も大きな要因だったと思います。
演奏会目前なのに指が思うように動かない
20代男性 大学生
相談内容
大学に入ってからサークル活動でギターの演奏を始め、頑張って練習してから指がおかしくなった。
右手の親指と人差し指が、少し使うとつるって、ふるえたり曲がりにくくなったりしてつらい。
11月24日に演奏会でギターの演奏をするが、指が思うように動かないので練習もままならないし、本番で動かなくなりそうで不安。演奏会ではデュオで演奏するので失敗できないので動くようにしたい。
治療
実際身体をみてみると手足が氷のように冷たかったので、少しお話をうかがってみると、ワンルームマンションのユニットバスで毎日シャワーのみの入浴をしているという事。シャワーのみの入浴では冷えを助長する旨を説明して、入浴回数を3日に1回程度に制限して、足湯をするように指導しました。
その上で、指に意識を置きながら、全身の冷えをとることを目標に基本治療をし、補助治療として知熱灸・失眠の灸・足井穴の温灸、腹部の温灸をしました。
11月15日から治療を開始、
11月18日(2回目)−特に変化なし、足湯を初めて足の冷えが感じにくくなって寝付きやすくなった。
11月22日(3回目)−治療の翌日は症状が楽になる。足湯を初めてから冷え症の具合が良くなってきた。
結果、24日の演奏会では、演奏終了まで指の異常は出ず、無事に演奏を終えることができました。
その後、年末まで3回ほど治療を行い、年末の帰省を機会に、一旦治療終了としました。
まとめ
治療の内容を見ていただくと分かりますが、指の周辺組織への治療を行うのではなく、全身的な冷えの治療を重点的にすることで指の症状が改善している事がお分かり頂けると思います。
手・指先には全身的な精気の状態、端的には元気の状態がよく現れます。腹の状態(胃腸の状態)が反映されるという見方もありますが、要点としては陰の気力(元気)の状態が現れるという考え方なので同じ様な意味合いと考えて良いと思います。風邪を引いたりして寝込んでいる時に、しっかり持っていた筈のコップや器をうっかり落としてしまったなんてことはありませんか?
この患者さんの場合、引き金はギターの練習のしすぎという使いすぎ症候群ではあったのですが、医大生という事もあって日々のスケジュールがハードで、疲れが溜まっていた事も原因にあったように思います。また、上でも書いたとおり、はっきり自覚できる程身体が冷たく冷えていました。これは入浴方法を誤っていた性でもありますし、やはり独り暮らしということで生活そのものが多少不規則になっていた事も影響していたように思います。
入浴というのは、身体を温めるために行うという目的もありますが、身体を濡らすということは、気化熱で皮膚表面からある程度体温を逃がしてしまう事にもつながりますから、シャワーだけで済ませたり、熱いお湯に短時間だけ浸かったりということをすると、換えって身体を冷やしてしまいます。(詳しくは「冷え習慣の改善」を読んで下さい)
この患者さんの場合は、独り暮らしという環境もあって、シャワーのみの入浴のあとに、半裸の状態でついついのんびり休んでしまうという、冷えをさらに助長させるような習慣がついていたので、その点を改めて頂きました。また、同時に身体を冷やしがちな汗の始末や服装などの保温の注意を指導して改めて頂きました。
さらに、お薦めした足湯も実践されたところ、冷え症の症状も大きく解消され、指だけでなく、冷えによる不眠傾向も改善し、喜んでいただけました。
水を飲んでも戻してしまい半年で14kg痩せた
20代女性 学生
相談内容
夏風邪を引き、夏バテで食欲が落ちてから、固形物はもちろん、水を飲んでも胃が受け付けずすぐにもどしてしまうようになり、ほとんど食事ができなくなって半年で14キロも痩せてしまった。
春から県外の学校へ行くので、それまでに少しでも体調を良くしておきたい。
治療
やせ形で脈も細く沈んでいて精気がすっかり衰えている印象が強かったので、治療が強くあたらないように、通常の銀鍼ではなく、子供や気力の弱い方向けの刺さない鍼(てい鍼)で治療する事にしました。
原則的に、基本治療を入念に行い、補助治療として、背中・お腹・指先などに温灸をおこないました。
2月21日から治療を開始。
2月24日(2回目)−前回治療後に頭痛と寒気がでたが、一眠りしたら治った。
2月27日(3回目)−前回の治療後にやはり頭痛が出た。ほとんど食べられない。
3月3日(4回目)−前回の治療後は身体が楽だった。食欲も少し出てきた。
3月5日(5回目)−最近調子が良い。食欲も出てきたが食べると胃もたれがする。
3月10日(6回目)−吐くことがなくなったが胃もたれが続く。
3月13日(7回目)−昨日、卒業式後の謝恩会で友達と一緒に食事が出来た。
以後、4月3日(14回目)まで治療したところで引っ越しになったので治療中断となりました。
まとめ
1回目、2回目の治療後に、頭痛が出たりして調子が悪くなったとのことだったので、刺激量がオーバー気味であると判断し、3回目から背中全体に行っていた温灸を止め、変わりに腰に知熱灸をすることで冷えの改善を試みたところ、頭痛などの症状は出ずに、少しずつ食欲が出てくるようになりました。
治療というのはそれを受ける患者さんに、治療を消化して受け入れる力(精気)が無いと強くあたりすぎることがあります。この患者さんの場合、温灸が強くあたりすぎていた様子で、灸の方法を変えることで適切な刺激量に合わせることができました。
水を飲んでももどしてしまう状況の時には、お友達と一緒にお茶も出来ない生活が続いていたそうですが、卒業式の謝恩会ではお友達とも普通に食事をして過ごせた様子で、ニコニコと楽しそうにお話をされる姿をみて私まで嬉しい気持ちにさせていただきました。
ただ、後に引っ越し先の病院で、摂食障害と診断され、その時の担当医の言葉から「病気」のレッテルを貼られたという強烈なショックを受けてしまい、一事かなり過食傾向が強くなったようですが、独り暮らしをしながらも自己管理をしっかりされて無事に大学も卒業、今は立派に公務員として働いていらっしゃいます。
症状から考えて、3ヶ月は治療を続けたかった患者さんでしたので、十分に治療できずに中断しなければならなかったことが残念だった臨床例でした。